研究概要 |
I. 下部直腸癌に対し括約筋温存術が可能な症例を明らかにするため,腫瘍と肛門挙筋または外肛門括約筋間距離の最も接近した距離(腫瘍横紋筋間距離)と,粘膜下における腫瘍細胞の肛門側への進展(粘膜下肛門側進展)を評価した.対象は1992年から2004年までに横浜市立大学病院にて直腸切断術を施行したT2およびT3の下部直腸癌64例.腫瘍横紋筋間距離の平均は10.5mm.腫瘍横紋筋間距離近接(5mm未満)の危険因子は,単変量解析では,腫瘍下縁の位置(p<0.001),粘膜下肛門側進展の有無(p<0.001)と組織型(p=0.015)で,多変量解析では,腫瘍下縁の位置(p=0.003)と粘膜下肛門側進展の有無(p=0.040)であった.腫瘍下縁が歯状線から10mm以上口側に存在した31例中,腫瘍横紋筋間距離が5mm未満の症例は2例のみであり,これらは最大10mmの粘膜下肛門側進展を伴っていた.粘膜下肛門側進展の多変量解析での危険因子はリンパ節転移陽性(p=0.007)であった.以上より,腫瘍下縁が歯状線から10mm以上口側で,粘膜下肛門側進展がないと考えられるN0,T3までの症例に,括約筋温存術が施行可能であると考えられる. II. 直腸切断術症例の病理組織所見と術前MRI所見を対比し,外肛門括約筋に浸潤あるいは近接する直腸癌の診断にMRIが有用であるか検討した.対象は2002年9月以降に静岡県立静岡がんセンターにて直腸切断術を施行した26例.病理組織学的に腫瘍先進部から外肛門括約筋内側縁までの距離を測定し,1mm以下の場合を外肛門括約筋近傍浸潤と定義した.MRI T2強調画像において外肛門括約筋浸潤に関する診断基準を定め,組織学的所見との対比を行った.組織学的に外肛門括約筋近傍浸潤例は7例,括約筋内浸潤例は2例であった.MRIによる括約筋内浸潤あるいは近傍浸潤診断は感度89%,特異度82%であった.MRIは外肛門括約筋に浸潤あるいは近接する直腸癌の診断に有用であると考えられる.
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