研究概要 |
I.肛門括約筋間切除術(ISR)は腫瘍を内肛門括約筋ごと切除し,外肛門括約筋を温存する術式で,腫瘍が外括約筋に近接していない症例が適応とされている.直腸切断術で得られた切除標本の臨床病理学的検索からISRの適応を決定する.対象は1992年から2004年までに横浜市立大学病院にて直腸切断術を施行したT2およびT3の下部直腸癌64例とした.下部直腸癌に対する直腸切断術の切除標本を全割し,割面の再構築を行い,腫瘍と外括約筋との最短距離(T-SM)を測定した.T-SM<5mmを外括約筋近接症例とし,他の臨床病理学的因子と対比した.深達度別の内訳はMPが11例,A1/A2が53例で,歯状線から腫瘍下縁までの平均距離(T-DL)は11.3±14.2mmであった.T-SMはT-DLとのみ相関した(多変量解析,P<0.01).外括約筋近接症例は17例で,MPは3例であった.MP症例では,腫瘍下縁が歯状線より肛門側であった3例中2例が外括約筋近接症例であった.腫瘍下縁が歯状線までの8例中,外括約筋近接症例は1例のみで,T-DLが2mm, T-SMが3mmであった.A1/A2症例の外括約筋近接症例は,T-DL 10mm未満では26例中12例(46.2%)であったのに対し,T-DL 10mm以上では27例中2例(7.4%)のみであった.この2例は,粘膜下で腫瘍肛門側進展を認め,同部で外括約筋に近接していた.粘膜下で腫瘍肛門側進展を認めた症例は17例(26.6%)で,危険因子はリンパ節転移陽性,低分化腺癌,粘液癌であった.【結論】ISRの適応は,腫瘍下縁が歯状線までのMP症例,および腫瘍下縁が歯状線から1cm口側までのA1/A2症例と思われた.リンパ節転移陽性,低分化腺癌,粘液癌では腫瘍の粘膜下肛門側進展の危険があり,適応から除外するべきである. II.直腸切断術症例の病理組織所見と術前MRI所見を対比し,外肛門括約筋に浸潤あるいは近接する直腸癌の診断にMRIが有用であるか検討した.対象は静岡県立静岡がんセンターにて直腸切断術を施行した26例.病理組織学的に腫瘍先進部から外肛門括約筋内側縁までの距離を測定し,1mm以下の場合を外肛門括約筋近傍浸潤と定義した.MRI T2強調画像において外肛門括約筋浸潤に関する診断基準を定め,組織学的所見との対比を行った.組織学的に外肛門括約筋近傍浸潤例は7例,括約筋内浸潤例は2例であった.MRIによる括約筋内浸潤あるいは近傍浸潤診断は感度89%,特異度82%であった.MRIは外肛門括約筋に浸潤あるいは近接する直腸癌の診断に有用であると考えられる.
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