悪性腫瘍は、劣悪な環境でも活発に分裂および増殖を繰り返す。このためのエネルギーを獲得する際、解糖系の寄与が大きいと考えられている。すなわち、悪性腫瘍細胞では、通常の細胞とは異なり嫌気性糖代謝が亢進している。この現象を画像診断に応用したのが18F-fluorodeoxyglucose (FDG)を用いたポジトロンCT (PET)検査(FDG-PET)である。種々の画像診断を用いても、良悪性の鑑別や腫瘍の浸潤範囲の同定に困難な症例に遭遇することがよくあるが、FDG-PETはこれらの定性的な診断を画像的に可能にする。一方、PETを利用することで腫瘍の糖代謝についての定量的な評価が可能である。肝以外の腫瘍ではFDG-PETによる検出率は高く、肝においても転移性肝癌では高率であるが、肝細胞癌だけは検出率が極めて低い。肝細胞癌とその他の臓器の癌との根本的な違いは、その血流量にあると考えられる。肝細胞癌は他の癌に比べて非常に血管に富んでおり、血流量は非常に豊富である。すなわち、好気的糖代謝が盛んであると考えられる。FDG-PETは嫌気的糖代謝の指標であり、好気的代謝が盛んな部位ではFDGの集積は低い。つまり、癌の血流量と嫌気的糖代謝量(FDG-PETの検出率)が逆相関するのではないかと考えられる。本研究の究極の目的はFDG-PETでの肝細胞癌の検出率の低さを解明することである。さいわい、これまで肝における血流量測定をポジトロンCTを用いて行ってきた。また、ポジトロンCTでは酸素代謝量、糖代謝量を定量することができる。この手法を用いて肝細胞癌のFDG-PETによる検出率の低さを解明し、さらには、治療法の選択までつなげようとすることがこの研究の目的である。平成18年度は主に肝細胞癌について解析を行ったが、肝細胞癌のFDGの取り込みは、腫瘍の血流量と深い関連を示したが、腫瘍の酸素消費量とは関連を示さなかった。
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