放射線性腸炎は、癌に対する放射線治療によって、消化管に難治性炎症が生じ長期にわたって患者のQuality of Lifeを著しく損なう医原性疾患である。本研究は、プラスミド・キトサン複合体を遺伝子デリバリーシステムとして、肝細胞増殖因子(HGF)遺伝子を導入し、放射線性腸炎の発症予防効果ならびに発症後治療効果の検討することを目的とした。 レポーター遺伝子lacZを発現するlacZプラスミド・キトサン複合体を用いた遺伝子導入の検討では、C57/BL6マウスに経口投与することで、消化管上皮に特異的な遺伝子発現を認めたが、その遺伝子発現は上部消化管に限られ、かつ微弱であった。このため、HGFプラスミド・キトサン複合体の経口投与では、放射線性腸炎の発症予防効果・発症後治療効果は得られなかった。 しかしながら、アデノウイルスベクターを用いてHGF遺伝子をC57/BL6マウス小腸に直接注入した場合には、lacZ遺伝子導入群より、放射線照射後の小腸上皮細胞のアポトーシスは有意に少なく、粘膜障害の程度も有意に軽かった。 以上のことから、HGF遺伝子を標的とした放射線性腸炎に対する予防法の可能性が示された。消化管への遺伝子デリバリーシステムとしてのプラスミド・キトサン複合体の経口投与法は、消化管上皮特異的な遺伝子発現が得られる点は優れているが、遺伝子発現強度・下部消化管への遺伝子導入の点では、今後さらなる改良が必要である。
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