幹細胞は造血系と体性系があり、ユニークな能力を備えた特殊な細胞で、自己複製により自らを新しく作り代えることができる。そして、多分化能により自分以外の種類の細胞を作り出すこともできる。近年、ABCトランスポーターによる高い色素排出能は幹細胞特異的な性質として様々な細胞種で保存されている可能性が示唆され、side population(SP)という表現型が様々な幹細胞を同定・分離するための有用なマーカーになりうると考えられている。現在までに、皮膚、筋、乳腺など様々な正常組織に存在するSP細胞が幹細胞としての多分化能と自己複製能と有し、非SP細胞に比べ、分化・増殖に関連する遺伝子やタンパクの発現レベルが高く、sphereやcolonyなど高いクローン性を保持し長期に継代培養が可能であることなどが相次いで報告されている。しかしながら、まだ、胃癌組織及び細胞株ではSPにおける癌幹細胞(Cancer stem cells ; CSCs)は同定されてはいない。我々は、DNA結合色素であるHoechst33342を用いて4種類のヒト胃癌細胞株(MKN28、MKN45、MKN74、KATOIII)よりSP細胞の分離を行った。各細胞のSP割合は0.04〜1.93%であった。MKN45で最もSP比率が高く、CSCsの存在比が高いことが示唆される。 そこでMKN45由来SP細胞について癌幹細胞活性を評価した。遺伝子発現ではMDR1、BCPR1、TRA-1、c-MYC、WNT10bのmRNA発現レベルが非SP細胞に比べて高く、上皮マーカーであるCK19の発現は低かった。免疫細胞染色法によるタンパクレベルでの幹細胞マーカーの発現解析では、SP細胞でMsi1、SSEA-4が陽性を示した。FACSにより分離したSP細胞および非SP細胞をそれぞれin vitroで培養すると、SP細胞からは再度SP細胞と非SP細胞の両方の細胞群が生じるが、非SP細胞からは非SP細胞しか派生しないこと、さらに、SP細胞では無血清培養においてSphereの形成と長期継代培養が可能でありSP細胞の自己複製能を示唆している。また、脂肪分化誘導培養条件下でSP細胞はオイルレッドO染色により脂肪滴を確認することができた。 この研究では、SPという表現型を利用することによって、胃癌細胞株に存在する癌幹細胞を含んだ細胞集団を分離することが可能ではあることが示唆され、癌幹細胞の自己複製や分化、増殖を制御している分子を同定することにより新規の標的分子が発見されることが期待できる。また、癌幹細胞という、癌の起点的な存在を同定することにより、癌の発生起源についてもさらに詳細に解明が進むことになると予測される。
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