研究課題
基盤研究(C)
3年間に渡り、ビーグル犬を用いた解析を継続してきた。タバコに含まれる化学物質として、最も多く含有され、かつ脂溶性物質としてベンツピレンを選択し、あらかじめ、ポリ乳酸カプロラクトン共重合体50mgとベンツピレン7mgをクロロホルム1ccを共溶媒として溶解させ、円形のディッシュの中で乾燥させて、ベンツピレン徐放フィルムを作成した。全身麻酔下に、左開胸を施行、胸部下行大動脈にフィルムを貼付け、一部縫合して、大動脈壁に対してベンツピレンを徐放するモデルを作成した。1ケ月後に、犠牲死させ、大動脈を肉眼的かつ組織学的に観察した。仮説では、喫煙と大動脈瘤の拡大に関する疫学的因果関係を解明することを意図し、脂溶性物質が大動脈壁内に沈着する際にベンツピレンなどの物質が高濃度に大動脈壁に蓄積し、大動脈壁の脆弱化を引き起こす事を想定した。肉眼的には、当該部位の大動脈壁は、周囲組織との高度な癒着を生じており、激しい炎症反応が生じた事が示唆された。組織学的には、内膜、中膜、外膜の基本構造は保たれており、フィルム周囲の構造破壊や、繊維性組織の被薄化など、組織の脆弱化を思わせる所見は認められなかった。好中球等の高度な細胞浸潤を認め、同部位の炎症が高度である事が示唆された。このことを追試にて確認した。外側からの徐放という非生理的モデルが、通常血管内なら起こりえない外膜側の強い炎症を引き起こし、ベンツピレンの本来の作用をマスクしてしまった可能性がある。今後、大動脈が瘤化するメカニズムに関して、さらなる解析を進めて行く上で重要な知見が得られたと考えている。