研究概要 |
A)多臓器転移能を有するヒト肺癌細胞クローンの単離 肺癌は全身の複数臓器に転移を起こすことが多く、従来の動物実験モデルでは、その再現は困難であった。そこでヒト肺癌細胞株PC14、LCMSのヌードマウス尾静脈注入を繰り返すことによって多臓器高転移クローンを単離した。これらのクローンはヌードマウスに尾静脈注入すると親株に比して有意に多数の転移巣を形成し、転移好発臓器としては副腎、骨、リンパ節、肺などヒト肺癌の好発臓器と一致していた。 B)多臓器転移能を有するヒト肺癌細胞クローンの生物学的性質の比較検討 in vitroおよび、マウス皮下腫瘍モデルを用いてin vivoでの増殖能の比較を行った。親株と高転移クローンとの間に増殖能に有意な差は無かった。in vitroでの浸潤能についての比較検討でも有意な差は無かった。 C)候補転移関連遺伝子のヒト肺癌での発現について検討 PC14AdとPC14親株から培養細胞の状態でRNAを抽出し、遺伝子発現の差をcDNA microarrdyを用いて比較した。10倍以上の変動が見られた遺伝子が28遺伝子であった。発現変動が見られた遺伝子の内4遺伝子(HRB2,HS3ST3A1,RAB7,EDG-1)についてRT-PCRでヒト肺癌臨床検体での発現を検討したところPC14Adで高発現の3遺伝子は正常肺組織に比べ癌で発現が増加しており、低発現の1遺伝子は正常肺組織に比べ癌で発現が減少していた。さらに2遺伝子では有意な差があり、これらの遺伝子は肺癌の発生、進展および転移に関与している可能性が考えられた。さらに転移モデルの転移巣、皮下腫瘍からRNAを抽出し、前述4遺伝子についてRT-PCRで比較検討したところ、モデル転移巣、皮下腫瘍ともにこれらの遺伝子の発現レベルに差が無く、転移クローンでは構成的にこれら4遺伝子が発現変動し、転移能を制御していると考えられた。今後さらに遺伝子導入実験や臨床検体肺癌転移巣組織でのこれらの分子の発現を解析することで肺癌転移の候補標的分子の同定を試みる。
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