研究概要 |
【研究概要】培養心筋細胞が低酸素・再酸素化状態においておこす変化と糖代謝・脂肪酸代謝の関連について検討した。90分間の低酸素(5%O2,95%N2)の後60分間の再酸素化(95%O2,5%CO2)を行い、グルコース(Glu)摂取、乳酸(Lact)産生、アポトーシスの有無(ELISA ; ApoStr and BlOMOL, PA, USA)、Extracellular regulated protein kinase (ERK、ELISA : BIOMOL, PA, USA)の活性化(リン酸化)、Fatty acid binding protein (FABP ; ELISA, Life Diagnositics, PA, USA)の変化とceramideタンパク(Western)の変化について検討した。Sphingomyelinase拮抗薬であるD609の効果とvanadyl sulfate (Vana)の効果についても検討した。Malonyl CoA decarboxylase (MCD)拮抗薬は企業からの提供が受けられず、使用できなかった。【結果】低酸素中にはVanaのGlu摂取は有意に上昇しこれに伴ってLactの放出も増大した(嫌気下解糖の亢進)。また、D609でもGluの摂取はやや亢進していたがLact放出はむしろ低下していた。再酸素化後D609, VanaともにGlu摂取の亢進と乳酸放出の低下を認め良好な好気下解糖の亢進が示唆された。一方低酸素化中のアポトーシスはD609で有意に低下していて再酸素化後も対照群に比べ有意に低値を示した。また、phosphorylated ERK 1/2は低酸索下では対照群に比べD609で有意に低値を示したが、再酸素化後は両群間に有意差を認めなかった。細胞障害の指標であるFABPは低酸素下でも再酸素化後も群間に差はなくELISA法で検出されたアポトーシスが細胞壊死に基ずくものである可能性は低い。当初RIを用いたceramideの検出を計画していたが、RI使用上の問題等によりIgM抗体を(Alfresa Parma Corporation,Osaka, JAPNA)用いたWesternプロットによる検出を行った。低酸素下のceramideは対照群く比べD609で有意に低下していた。【考察】低酸素化により嫌気下解糖の充進と乳酸産生の増大が起こり再酸素化後も好気性代謝が阻害されると考えられているが、D609の投与により低酸素化中および再酸素化後のエネルギー代謝の改善が見られた。また、心筋細胞内でのアポトーシスが有意に抑制されていたが、ERKのリン酸化抑制と関連していた。しかもD609投与により低酸素下でのceramideタンパクの発現も有意に抑制されていた。ERKのリン酸化がトリガーとなってその後のアポトーシスを生じている可能性、ceramideを介したアポトーシスの抑制(diacylglycerolによる)などが考えらるるが、低酸素・再酸素化によってこれらの現象がほぼ同時に見られることから低酸素・再酸素化の過程においてceramide, ERKの活性化,アポトーシスが重要な役割を果たしている可能性が高い。
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