研究概要 |
[背景]臨床肺移植において移植後急性期には虚血再還流障害、血管吻合部狭窄による肺うっ血、急性拒絶反応、感染症など多様な合併症の可能性があるが、これらの鑑別診断は困難なことが多い。同時に、拒絶反応が疑われた場合、抗胸腺細胞抗体(ATG)あるいは抗CD25(IL2-R、活性化T細胞マーカー),抗体などのT細胞に対する抗体療法が導入されている。 [目的]末梢血リンパ球のマーカー、特にリンパ球活性化に伴って発現するマーカーの解析を行い、拒絶反応の診断に利用できるリンパ球表面抗原のパネルを決定、拒絶反応時のヘルパーT細胞の機能的特長をサイトカイン産生能にて評価し、他の肺障害との鑑別を目指すこと。 [対象]以下の臨床肺移植例。脳死肺移植術後急性期、生体肺移植術後急性期、および生体肺移植術後慢性期の拒絶反応または肺炎疑(最終的に間質性肺炎)。 [方法]末梢血リンパ球を分離し、抗CD3,CD4,CD8,CD25,CD69,CD28,CD45RA,CD45RO抗体を用いて3 color flow cytometryを行った。移植後急性期患者では経時的なCD4 T cellとCD8 T cellの細胞表面抗原発現を解析した。 [結果]抗CD25抗体(Baliximab)と標準的三剤併用療法を行い、急性期に拒絶反応や感染症を発症しなかった患者では、CD4/CD8分画比率の変化、末梢血リンパ球表面のCD25やCD69などの活性化マーカーの発現、CD45RA(ナイーブT細胞)とCD45RO(メモリーT細胞)の分画変化は認められなかった。しかし、CD28(Costimulating Signaling)の発現は術後1ヶ月まで徐々に低下し、CD4 T cellよりもCD8 T cellにて優位であった。慢性期の間質性肺炎例ではCD4 T cellにおいてCD25発現レベルの上昇とCD8 T cellにおいてCD69発現レベルの上昇を認めたが、開胸肺生検の結果、病理学的に間質性肺炎と診断され、拒絶反応と細菌性肺炎は否定された。 [まとめ]抗CD25抗体投与によりCD25の発現が抑制されていること、CD4/8、CD45RA/RO変化が抑制されていることが示された。
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