研究概要 |
骨髄細胞移植による心血管再生治療は様々な実験モデルにおいて治療後の血流増加と心機能改善が認められている。しかし、骨髄細胞移植後の心機能改善効果は単純に血管新生によるものか、あるいは血管新生以外の作用によるものかは不明である。本研究はこの不明な点を明らかにすることを目的とした。 マウス虚血性心不全モデルはLAD結紮により作成した。モデルを作成直後にc-kit陽性骨髄幹細胞(4x10^5個)を虚血領域に4箇所注入した(骨髄細胞治療群)。血管成長因子投与群ではモデルを作成直後にHGF(20μg)を虚血領域に4箇所注入し、2,4,6日目にはHGF20μgを腹内投与した。対照治療群ではPBSを虚血心筋に注入した。非虚血性心不全モデルはdoxorubicinを腹腔内投与により作成し、上記と同様な治療を行った。治療後のマウスは毎日観察し、生存率を記録した。また、治療直後及び治療後7,14,30日目に心エコーによる心機能の変化を測定した。治療後30日目にマウスを犠牲死させ、組織染色により左室壁心筋血管密度を定量評価した。 虚血性心不全モデルに対しては骨髄細胞治療と血管成長因子投与は対照治療に比べ、共に治療後の生存率、心機能改善効果が認められた(P<0.05)。一方、非虚血性心不全モデルに対しては骨髄細胞治療群,では著明な心機能改善効果が認められたが(P<0.01)、血管成長因子投与では有意な心機i能改善効果が認められなかった(P=0.15)。しかし、いずれの心不全モデルにおいても左室心筋内の血管密度は骨髄細胞治療と血管成長因子投与の間に有意な差が認められなかった。虚血性と非虚血性心不全モデルに対して、骨髄細胞治療と血管成長因子投与は対象群と比べ、共に心筋組織線維化と心筋細胞apoptosisの抑制効果が有意に認められた。また、移植後4週目までに、骨髄幹細胞は心筋内に生存しており、一部の骨髄幹細胞がVE-cadherin陽性内皮細胞とMyosin陽性心筋様細胞への分化も観察された。 虚血性心不全に対しては骨髄細胞治療と血管成長因子投与が同等な効果が得られるが、非虚血性心不全では細胞治療の方が優れていると思われた。骨髄細胞移植による心機能改善効果は単純に血管新生によるものでなく、移植細胞の内皮や心筋様細胞などへの分化も心機能の改善に寄与していると思われた。
|