我々は強力な内因性血管新生抑制因子であるエンドスタチンを発現する遺伝子ベクターを作成し、形質導入の実験系を確立し、その有効な腫瘍増殖抑制効果を証明してきた。この強力なエンドスタチンの腫瘍抑制効果は持続性が乏しく、我々が施行してきた実験系でも腫瘍増殖抑制効果が証明されたが、その効果は持続せず、実験動物は腫瘍死となり、我々が理想とするtumor dormancy、つまり癌との共存には至らなかった。また実際の臨床試験でも現在まで良好な報告はない。この原因として、エンドスタチンのもつ強力な血管新生抑制効果を打ち消すような何らかの血管新生促進因子の代償的発現亢進が予想される。本研究ではマウス肺にエンドスタチン遺伝子を形質導入し、代表的な血管新生因子であるVEGFに着目し、その発現の程度を検討した。VEGF mRNAは定量的RT-PCR法でGAPDHを内因性コントロールとして定量した。今回の実験では、エンドスタチン形質導入群(n=6)では肺内のVEGF遺伝子発現はエンドスタチン形質導入後早期(24時間後)から認めており、その発現はコントロール群(n=6)に比べて高かった(ANOVAのScheffe法ではp=0.0755、Mann-Whitney U testでp=0.055)。この機序の詳細は不明であるが、エンドスタチン形質導入とVEGFの抑制が可能であれば、強力な血管新生抑制が持続的になる可能性が示唆された。
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