我々は、細胞移植を用いた不全心治療をテーマに研究を重ねてきた。その中で、細胞培養の操作が必要な治療における最も大きなハードルは、細胞培養における安全性の確保である。現在までの細胞培養は、その多くが開放系で行ったものであり、閉鎖培養系の応用はほとんど実施されていなかった。本研究では、MABIO internationalより市販されている最も小ささ閉鎖式細胞培養容器を使用し、そのFeasibility/Safetyを1年目の実験にて検討し、十分臨床応用が可能であることを確認した。本年度の計画としては、この閉鎖細胞培養を用いた臨床応用を行うこととしていた。 しかしながら、年度の初めに厚生労働省より"ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針"の草案が示され、9月1日には発布された。我々が用いた閉鎖式培養容器は、完全には閉鎖となっておらず、GMP基準を満たすためには、従来の開放系細胞培養系と同様に大規模なCell Processing Centerが必要となり、臨床研究に進むことができない状況となった。このような社会情勢の変化の中で、本研究では、当初の目標の1つであった長期間の培養を経た細胞の安全性の評価を目標に、大動物を用いてin vivoの検討を行うこととした。 ビーグル犬を対象に、骨髄細胞を採取し問葉系細胞のPrimary cultureから5-10 Passagesを経た細胞をドナーとして、同じビーグル犬の心臓へ戻し移植を行い、病理学的検討を行った。1年目の実験と同様に、感染等の問題は発生しなかった。また、長期細胞培養による細胞の癌化に関しては、標本を詳細に検討したが異型細胞を含め、癌細胞を認めることはなかった。 ここまでの研究結果にて、培養容器のみを閉鎖系にした細胞培養はFeasibility及びSafetyに関しては問題ないが、完全機械化によるRobotic Culture Systemが試作されており、完全閉鎖系培養システムとして期待される。培養による細胞癌化は、5-10 Passagesでは認めることはなく、過度な増殖刺激を加えない限り問題となることはないと考える。
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