研究概要 |
背景:冷却生食水注入ではなく、冷却カテーテルの硬膜外腔への留置による脊髄局所冷却法が大動脈手術の脊髄虚血に対して脊髄保護効果を持つかをブタ脊髄虚血モデルを用いて実験的に検討した。 方法:14頭の国産ブタをA群(n=7)、B群(n=7)に分け硬膜外腔にカテーテルを留置したのち、左鎖骨下動脈遠位で大動脈を30分間遮断した。A群では体外式循環装置を用いて冷却水をカテーテルの内腔で持続的に循環させ(40ml/min)脊髄を冷却した。B群では硬膜外腔にカテーテルを留置するだけで冷却水の循環はさせなかった。脊髄誘発電位(spinal cord somatosensory evoked potentials ; sSEP)を測定した。下肢の機能はmodified Tarlov sore (0:対麻痺、1: minimal motion,2: stand with assist,3: stand alone,4: weak walk,5: normal)に従い評価した。 結果:大動脈遮断時、A群の脊髄温(31.7±0.6℃)はB群の脊髄温(37.8±0.4℃)より有意に低かった(p<0.0001)。sSEPの消失の開始は、大動脈遮断後A群で25.7±4.5分、B群で16.1±6.0分とA群で有意に長かった(p=0.0053)。sSEPの全消失時間はA群で7.4±3.8分、B群で19.7±7.3分とA群で有意に短かった(p=0.0002)。sSEPのは回復時間は大動脈遮断解除後、A群で3.2±1.7分、B群で5.8±2.2分とA群で有意に短かった(p=0.031)。A群のTarlov soreは4.7±0.5,B群は0.6±0.8とA群で有意に良好な回復が認められた(p=0.0017)。大動脈遮断中、有意な脊髄髄腔内圧の上昇は両群で認められなかった(A群,8.4±3.3mmHg ; B群,8.1±1.8mmHg) 結論;冷却生食水注入をしない冷却カテーテルの硬膜外腔への留置による脊髄局所冷却法は髄腔内圧を上昇させることなく脊髄を持続的かっ選択的に冷却でき、虚血性脊髄障害にたいして保護効果をもつ。この方法は胸部大動脈瘤および胸腹部大動脈瘤手術に合併する対麻痺を回避するために有用であると期待できる。
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