閉塞性脳血管障害の病態は複雑で、細胞内で様々なカスケードが活性化され、細胞死から免れるメカニズムが働く。なかでも近年P13K/Akt pathwayが重要な働きをし、この経路を介してHypoxia inducible factor-1(HIF-1)などの転写因子の発現が誘導される。低酸素条件下でVHL(von Hippel Lindau遺伝子産物)依存性ユビキチンプロテオソーム系が抑制され、HIFファミリータンパク質HIF-1α、HIF-2αが著しく安定化して、血管内皮増殖因子(VEGF)の転写を誘導すると報告されている。 「材料と方法」そこで、フローセン麻酔下ウィスターラットの両側内頸動脈結紮モデルで右開頭術を行い、硬膜を切開し、側頭筋内と脳表にHIF-1発現ベクターを注入散布し、側頭筋を脳表に接触させて閉創する。この実験系をコントロール群と比較し、血管新生を比較検討した。また、脳虚血ストレスに対して脳神経細胞はHeat Shock Protein(HSP-70)の産生等の各種ストレス応答を示す。Geranylgeranylacetone(GGA)は長く胃薬として処方されていて、腸管や心筋にHSP-70を発現させると報告されている。神経細胞に関する報告は無く、以下の実験も行った。GGA内服ウィスターラットを用いて、フローセン麻酔下で右外頸動脈経由で内頸動脈に4-0ナイロン糸を挿入し右中大脳動脈閉塞モデルを作成した。脳梗塞の体積をコントロール群と比較した。 「結果と結論」HIF-1αの局所投与で新生血管が発生し、外頸動脈系と脳表との側副血行路の発達が観察された。またGGA内服で神経細胞にHSP-70の発現が観察された。これらの細胞は虚血耐性を獲得し、中大脳動脈閉塞モデル実験でも脳梗塞巣がコントロール群に比して有為に小さかった。これらの結果の臨床応用が検討される。
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