研究概要 |
閉塞性脳血管障害の病態は複雑で、細胞内で様々なカスケードが活性化され、細胞氏から免れるメカニズムが働く。なかでも近年P13K/Akt pathwayが重要な働きをし、この経路を介してHypoxia-inducible factor-1α(HIF-1α)などの転写因子の発現が誘導される。このHIF-1αはVEGFやEGFなどを誘導することにより血管新生を助長する。今回我々は、ラットにおけるencephalo-myo-synangiosis(EMS)モデル作成時にHIF-1α naked DNAを脳表に散布し、血管新生の誘導を評価した。 【材料と方法】フローセン麻酔下で雄Wistar rat(310-380g)に対して右開頭術・硬膜切開を行い、くも膜に包まれた脳表を露出して側頭筋と接着させてコントロール群とした。同時に100μgのHIF-1α naked DNAを脳表に散布して脳表と側頭筋と接着させて血管新生群とした。EMS術後5日もしくは10日後に、3-0 nylon suture'を右総頚動脈経由で頭蓋内へ挿入し、中大脳動脈を閉塞させた。この中大脳動脈領域の脳梗塞モデルでコントロール群と血管新生群との比較検討を行った。中大脳動脈閉塞24時間後に脳を摘出し、2mm幅にスライスし、2,3,5-triphenyltetrazolium chloride(TTC)と反応させることにより示された脳梗塞巣の大きさを両群で比較した。また、生じた新生血管を免疫染色にて評価した。 【結果と結論】TTCにより示された脳梗塞巣はHIF-1α投与の血管新生群でコントロール群に比較し小さかった。また、術後5日目より10日目の群でより縮小する傾向にあった。また、生じた新生血管は、より太く、深部へ向かって伸びていく傾向にあった。HIF-1αの局所投与で新生血管が発生し、外頚動脈系と脳表との側副血行路が発達し、脳梗塞を軽減した。脳虚血に対してHIF-1αが有効な治療手段と成り得る事を示していると考えられた。
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