致死的脳虚血に非致死的脳虚血を先行させると、その脳は遅発性神経細胞死から免れる(脳虚血耐性)。これは先行した非致死的脳虚血がストレス蛋白や神経保護的な成長因子を発現するためだと理解されているが、その詳細は不明である。近年、当研究室は、脳の非侵襲的刺激を先行させると、非致死的虚血同様に脳虚血耐性を獲得することを見いだした。すなわち、非虚血性のPreconditioningによる脳虚血耐性獲得の背景を検索することで虚血から「脳を守る」keyを見いだし、さらには脳虚血・脊髄損傷の治療応用へと発展させようとするものである。 1.脳虚血・脊髄損傷動物の細胞生物学的時間経過 虚血ならびに脊髄損傷直後から各種細胞性反応に加え、神経保護・再生効果を有するBDNFの上昇が確認された。損傷直後から2時間で、損傷部近傍に著しいBDNF遺伝子が発現し、以後漸減、BDNFは3-6時間以内にコントロール値に帰した。神経保護効果は安全性の確認された磁気刺激・既知の薬剤などの前投与により獲得でき、この効果に一致して熱ショックタンパク、BDNFの上昇も確認された。すなわち、神経保護因子は損傷単独でも発現するが、これらの非侵襲的先行誘導により著しい保護効果をもたらす。 本年度の内容【基礎研究;Project A】 1)高頻度磁気・電気刺激の脳保護的遺伝子発現至適条件検索 2)一過性脳虚血および脳梗塞(中大脳動脈閉塞)の分子生物学的解析 3)非侵襲的大脳刺激による脳虚血・神経損傷耐性の検索 これらの結果をBrain Researchの2論文ほかにまとめ公表した。 また、この領域に先進的なHelsinki大学工学部とも共同研究を推進した。
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