研究概要 |
脳脊髄液の産生に関与するといわれるアクアポリン1(AQP1)の水頭症モデルにおける変化を調べ,病態との関連を検討した. 雄のWister ratを用い,20%カオリン懸濁液0.05mlを大槽内注入して水頭症を作成した.MRIを施行し,2,4,9週後に灌流固定した.AQP1 mRNAの発現をin situ hybridization法で,蛋白の発現を免疫染色法で調べ,sham controlと比較した.一部の動物では4週間後に脳室・皮下腔シャント術を施行し,9週間後にシャントの影響についても検討した. カオリン注入後,MRIでは時間経過とともに側脳室は拡大した.sham control群では,脈絡叢にAQP-1 mRNAの発現を認めた.カオリン注入ラットでは2週間後に脈絡叢と脳底部にAQP-1 mRNAの強い発現がみられ,4週と9週ではさらに増強した.シャント術後は同部でのAQP-1 mRNAの発現は減少した.AQP-1蛋白の発現はカオリン注入2週間後に脈絡叢および脳底部に認めた.その後9週間後まで発現はみられたが、明らかな増加は認めなかった.場所は上皮細胞よりもapical membraneに強くみられた.シャント術後,脈絡叢での発現は減少したが脳底部での発現にはあまり変化がみられなかった. 水頭症においてAQP-1 mRNAの発現が増強したことは,髄液産生を増加させ水頭症を悪化させる可能性があり,生体防御の観点からは逆の反応である.ただ蛋白の発現は増加しておらず,水頭症の悪化を避けるために,mRNAから蛋白への転写が抑制された可能性がある.この仮説はシャント後に遺伝子と蛋白の発現抑制がみられたことからも支持される.以上の結果はAQP-1が水頭症の治療に新たな役割を果たす可能性を示している.脳底部にAQP1発現細胞が出現したが,この細胞の由来は種々の検索を行ったが不明で,今後の課題である.
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