研究概要 |
脳神経外科で扱う、頭部外傷、脳血管障害、脳腫瘍ではどの疾患でも脳浮腫を伴う。脳浮腫が生じると、脳容積の増大を伴う。閉ざされた空間である頭蓋内ではこの容積の拡大が頭蓋内圧を亢進させ、二次的脳虚血や脳ヘルニアを引き起こし、脳障害の更なる進展や生命にかかわる状態が引き起こされる。脳神経外科の治療はこの脳浮腫との闘いが最も重大である。脳疾患に伴う脳浮腫は血管源性浮腫(vasogenic edema)と細胞毒性(cytotoxic edema)があると考られている。vasogenic edemaは毛細血管の血液脳関門の破綻により、水分が脳内に漏出して起こるものであり、cytotoxic edemaは脳の神経細胞やグリア細胞の細胞質に水が貯留し、細胞が腫脹する浮腫である。外傷や脳虚血の際に急速に進行し、生命の危険を呈する浮腫はvasogenic edemaであり、vasogenicedemaの有効な治療ができるかどうかで患者の生命予後が決まってしまう。しかし脳浮腫の治療法はこの数十年殆ど進歩していないのが現状である。 最近になり新しいwater channel proteinであるAquaporinが発見された。Aquaporinは多くのsubtypeがあるが、脳にも存在することがわかり、水の輸送に関係していることが示唆されている。われわれの予備実験でも浮腫脳にAquaporinが発現していることが分かっている。これとは別にわれわれの今までの研究では浮腫脳のアストロサイト(星細胞)に血管透過性亢進factorであるVascular endothehal growth factor(VEGF)が発現することが分かっており(Very early expression of vascular endothelial growth factor in brain oedema tissue associated with brain contusion. Suzuki, R. et al. Acta Neurochir [Supp1) 86: '277-279, 2003)、脳浮腫の発現、浮腫液の吸収にAstrocyteが重要な役割を果たしていることが示唆されている。本研究は浮腫脳のAstrocyteとAquaporin, VEGF等の蛋白の発現状態を検討し、脳浮腫の発生機序と浮腫液吸収過程でのAstrocyteとAquaporinの役割を検討した。一方臨床研究では被殻出血や視床出血の脳出血において血腫周囲脳浮腫の進展・吸収を見当し、また血腫除去手術の脳浮腫に対する影響を検討した。
|