研究課題/領域番号 |
17591534
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
堀 智勝 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (60010443)
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研究分担者 |
落合 卓 東京女子医科大学, 医学部, 助手 (40307575)
石 龍徳 順天堂大学, 医学部, 講師 (20175417)
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キーワード | 海馬 / てんかん / ニューロン新生 / ポリシアル酸 / 細胞増殖 |
研究概要 |
本研究の目的は、成人の脳に存在する神経幹細胞を検出する方法を開発し、てんかん患者における神経再生機構を解明することにある。ラットでは、海馬歯状回の増殖細胞は、細胞周期のマーカーであるKi67の抗体を用いた免疫組織化学法で検出できる。しかしki67陽性増殖細胞が、ニューロンに分化するように運命が決定されている細胞であるかどうかは分からない。そこで増殖性の神経前駆細胞の段階から発現されるニューロンの初期分化マーカーを検索した。その結果、RNA結合タンパクのHuが増殖性神経前駆細胞に発現していることが明らかになった。未熟なニューロンのマーカーとしては、細胞接着分子NCAMの糖鎖ポリシアル酸(PSA), doublecortinなどが使用できる。ラットで明らかになった、これらの初期ニューロンマーカーとKi67に対する抗体を用いて、ヒト海馬切片を染色し、ニューロンに分化する増殖性神経前駆細胞や未熟ニューロンを検索した。 【対象・方法】てんかん患者(9〜42才:7例)、側頭葉神経膠腫患者(16〜49才:5例)を対象とした。摘出後の海馬を4%PFAで4℃固定した後に、クリオスタットを用いて50μmの切片を作製し、免疫組織化学反応を行い共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。 【結果】12例すべての歯状回の顆粒細胞下帯および歯状回門に未熟ニューロンのマーカー(PSA)陽性細胞を検出できた。対照群の患者と比べて、硬化を伴うてんかん患者では、PSA陽性細胞数が減少していた。しかし、硬化の程度が低いてんかん患者の海馬では、PSA陽性細胞数はそれほど減少していなかった。また、対照患者の海馬では、PSA陽性細胞は主に放射状の樹状突起を伸長する細胞であったが、てんかん患者の海馬のPSA陽性細胞の一部は、多極性であり、樹状突起に多数のこぶ状のふくらみが見られた。 対照群の若年患者の海馬では、Ki67/Hu陽性細胞がクラスターを形成しているのが見られた。また、Ki67/Hu陽性細胞のクラスターに接して、doublecortin陽性細胞が存在していることもあった。 【考察】硬化した海馬でPSA陽性細胞が減少していたことは、硬化した海馬ではニューロン新生が低下していることを示唆している。また、PSA陽性細胞に異常な形態が見られたことは、硬化したてんかん患者の海馬では、PSA陽性細胞が異常な神経回路を形成していることを示しているのかもしれない。Ki67/Hu陽性細胞のクラスターは、ラット海馬歯状回のニューロン新生部位に頻繁に見られる特徴的な細胞集団である。ラットでは、BrdU投与実験などによって、この細胞集団が増殖性神経前駆細胞であることは証明されている。したがって、ヒト海馬で検出されたKi67/Hu陽性細胞は、ラットと同様に、増殖性神経前駆細胞であることを強く示唆している。また、その細胞集団に接してdoublecortin陽性未熟ニューロンが存在していたことは、Ki67/Hu陽性細胞が増殖性神経前駆細胞であるとの結論を強く支持するものである。したがって、Ki67/Hu陽性細胞を検出することにより、ヒト海馬のニューロン新生を検出できると考えている。
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