研究概要 |
従来の下垂体腫瘍の研究は、細胞内あるいは細胞間の下垂体ホルモンに関連したシグナル伝達機構を考える傾向が強かった。しかし、生体内には細胞以外の主要な固形成分として、細胞外マトリックス(ECM)が存在する。ECMの分解を司る酵素群としてマトリックス・メタロプロテアーゼ(MMP)ファミリーがあり、現在20種以上のメンバーが知られている。近年、この分野における研究の突破口として期待される膜結合型の新規MMP阻害因子RECKという分子が発見された。この分子は従来知られていた分泌型のMMP及びMMP阻害因子(TIMPファミリー)とは違って細胞表面に結合しているため細胞の挙動制御に直接関わる可能性が高く、世界的に注目されている。しかしながら下垂体腺腫における動態はいまだに報告がなされていない。今回我々は細胞レベルでのRECKの発現によるMMP分泌、細胞浸潤の変化といった点から実験を行ったので報告する。 ヒト非機能性下垂体腺腫細胞HP-75を対照として、HP-75にRECK full length mRNAをtransfectして強制発現させたもの、RECKをターゲットとしたsiRNAでgene silencingした細胞を作成し、RT-PCR, Western blottingで発現の変化を確認した。zymography, reverse zymographyでMMP, TIMPの分泌の変化を解析し、3-D invasi on assayを行った。さらにこれらの細胞からmRNAを抽出し、cDNA microarrayを行い、シグナル伝達機構におけるRECKの果たす機能について網羅的に解析した。 RECKを強制発現させた細胞はMMP-2,-9の活性化や分泌が低下し、一方でgene silencingさせた細胞では逆に上昇していた。3-D invasion assayでは同様にRECKは細胞浸潤を抑制していた。cDNA microarrayではMT1-MMPが特にRECKによってdown-regulateされていた。 下垂体腫瘍細胞にはRECKが発現し、細胞浸潤を抑制していた。
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