研究概要 |
本研究は下垂体腺腫の分子レベルでの浸潤機構の解明を目的とした。下垂体腺腫は、臨床上しばしば(18-28%)周辺の海綿静脈洞などの正常組織への浸潤を来たす病態を示すことが知られている。今回我々は培養下垂体腺腫細胞を低酸素状態で培養して1)cDNA microarray,2)real-time RT-PCR,3)cell invasion assayを行い、変化する遺伝子のうち、細胞浸潤と関連すると思われるfactorの遺伝子を同定し、臨床症例の免疫染色で発現と浸潤との相関を解析した。 本研究の成果ではcDNA micorarrayでは1%酸素で培養したヒト下垂体腺腫細胞ではDiscoidin Domain Receptor(DDR)-1のmRNAが有意に発現増加し、real-time RT-PCRで確認した。さらにflow cytometryとWestern blottingで細胞膜分画での蛋白レベルの有意な増加を確認した。In vitro cell adhesionとcell invasionも同様に増加していた。下垂体腺腫42例の症例の蛍光免疫染色でDDR-1を染色したが、各subtype間に発現の有意差はなかったが、しかしながら浸潤のgrade(Knosp grading)の高いものほどDDR-1の発現のみは有意に上昇していた。同時にpituitary apoplexyの症例でも非apoplexy群に比してDDR-1は有意に発現が高かった。従ってDDR-1は低酸素マーカーと考えられ、浸潤傾向の強い腺腫ほど強く発現し、或いはpituitary apoplexyの発症に相関して発現していた。下垂体腺腫の腫瘍浸潤と下垂体卒中の背景として組織酸素分圧の低下が存在することが明らかとなった。
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