早期に、本実験へ移る予定であったが、想像以上に一定の量の薬液を想定部位に注入するのが困難であることが分かった。以前のわれわれの実験結果からは、ほぼ同様のシステムで、マウス胚の一個の細胞に液体を入れることは可能であることが分かっていた。その経験から、同様の手技を用いることでニワトリ杯の数個の細胞に薬液を注入することは、むしろ容易であろうと考えていた。しかし、実際には、ニワトリ杯はかなり脆く、薬液注入はシングルセルインジェクションよりも困難な側面があることが分かった(マウス杯の場合は、軽度の陰圧をかけることで、胚全体を把持することが出来、そうすることで、シングルセルインジェクションが可能であるが、ニワトリ杯は平坦な培地上での培養のため、同様の手技が使えない)。そのために、今年度は昨年度に引き続き、neutral redを用いてニワトリ胚に少量の液を入れる工夫をした。今までのわれわれ自身の実験の経験からは、ハミルトンシリンジやガラス管を用いて薬液を注入する場合、ある-定の注入速度が要求されることが分かっていたが、ハンバーガ・ハミルトンのステージの若い個体における胚へ注入する場合には、注入速度が速すぎると、細胞のみならず、胚自体が操作により破壊されてしまっている可能性が高いことが分かった(緩やかに結合している、細胞同士が、剥がればらばらになってしまう)。また、注入速度が遅すぎると、細胞間に薬液が広がりすぎ目的が達成できないことが分かった。最終的に、一定量をゆっくり注入することで、胚を破壊することもなく、かつ目的とする層に注入することが出来るようになった。
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