癌骨転移性疼痛(骨痛)のメカニズムは癌浸潤による骨破壊という物理的刺激を知覚神経が認識し、痛みとして認識されると考えられている。がん骨転移では、破骨細胞が酸を分泌して骨を破壊すること、腫瘍自身が酸性環境を作り出すこと、酸が発痛物質の一つであることから、我々は骨痛のメカニズムの一因として酸、及び酸感受性受容体が関与していると仮定し、酸感受性受容体の一つであるカプサイシンの受容体(TRPV1}に着目した。平成17年度は骨痛誘発動物モデルを作成し、免疫組織学的検討により腫瘍移植下肢骨では腫瘍、及び破骨細胞周辺骨では酸性(アシドーシス)になっていること、行動解析により野生型マウスでは経時的に痛みは増強したが、TRPV1遺伝子欠損マウスでは有意な痔痛発現がみられないことを見出した。下肢骨及び一次ニューロンである後根神経節(DRG)では免疫組織学的検討によりTRPV1の発現が、痛みを感受した野生型マウスの腫瘍移植下肢骨やDRGでは非移植側と比較して有意に増加していた。痔痛マーカーとしてDRGでリン酸化ERKタンパクの発現を免疫組織学的に検討したところ野生型マウスの腫瘍移植側では非腫瘍側と比較して、有意に増加していたが、TRPV1遺伝子欠損マウスでは有意な発現の増加はみられなかった。また、その発現は共にTRPV1遺伝子欠損マウスの腫瘍移植側では野生型マウスの腫瘍移植側と比較して有意に減少していた。 平成18年度はDRG器官培養によるin vitro発痛モデルを確立した。ラットDRGに酸刺激を加えると免疫沈降法によりTRPV1タンパクの発現は上昇した。また、野生型マウスのDRGでは酸刺激でリン酸化ERKタンパクの発現は上昇し、TRPV1選択的阻害剤により、その発現上昇は抑制された。TRPV1遺伝子欠損マウスのDRGでは酸刺激やTRPV1選択的阻害剤によるリン酸化ERKの発現に影響はみられなかった。 以上の結果より、酸および酸感受性侵害受容体TRPV1が骨痛に関与していることを見いだした。
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