研究概要 |
中枢神経系の可塑的変化・再構築は,脳梗塞後の神経の代償性回復,また,患肢切断後の利き手交換や腱移行手術後の回復過程に重要な役割を担っていると考えられている.中でも、最もその影響が表れると考えられるのは、従来別の役割を果たしていた神経に他の機能をさせようとする場合であり、整形外科領域では肋間神経や健側頚神経根を用いた腕神経叢損傷の機能再建の場合がそれであろうと考えられる。今回の研究ではfunctional MRI(以下f MRI)による脳機能イメージングと体性感覚誘発電位測定法(SEP)を使用して,従来は別の役割を果たしていた神経に新たな機能をさせた場合に生じる,脳から効果筋に至る神経系の再構築を解析した.対象は腕神経叢損傷により患側の麻痺が生じたため、幼少時にマイクロサージェリー技術により反対側のC7神経根を神経移行して患側の運動感覚麻痺に対する治療を行った患者である。成人患者にどう世の手術を行った場合と異なり、2人の患者はいずれも健側の上肢を使うという意識なく患肢を使うことが出来ることを述べている。f MRIを用いて患側に運動タスクをさせたときの脳活動を解析すると両側の大脳半球に脳活動が観察された。同様に対側のC7神経移行術により感覚改善が引き起こされた部分に触覚刺激を加える感覚タスクを与えた際の脳活動も両側の体性感覚野にみられた。一方、電気刺激を用いて神経修復された部位を刺激した際に生ずる脳活動は患側のみから検出された。 今回みられたf MRIの研究結果は対側C7神経根移行術を行われた患者において脳内の神経再構築が引き起こされていることを示すものと考えられた。一方でSEPの結果は単純に接合された神経が最初にどの部位に投射しているかを示したものと考えられた。 今後このような研究を更に進めてこれらに潜む脳内の可塑的変化について更に研究を行う必要があると考えられる。
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