研究概要 |
ユーイング肉腫の90%以上で特異的染色体転座t(11:22)がみられ、その結果異常な融合遺伝子EWS-Fli1が生じる。この融合遺伝子産物は強力な転写因子として働き、ユーイング肉腫の発がん原因と考えられている。これまでに我々は、EWS-Fli1が癌抑制遺伝子Rbに関係した細胞周期制御因子(p27,p21,cyclin E)を標的とし、Rb経路を阻害することを明らかにした。さらに、これらのEWS-Fli1の標的遺伝子の中で、p27発現レベルの低下がユーイング肉腫患者の最も強い予後予測因子であることが判明した。しかし、EWS-Fli1によるp27発現抑制の分子機構は不明である。近年、p27の発現調節は主として蛋白質分解のレベルでなされており、その分解にはユビキチン・プロテアソーム系が関与していることが示された。また、いくつかの癌種において、ユビキチン系の活性異常が報告されているが、ユーイング肉腫に関する報告は殆どない。本研究の目的は、EWS-Fli1によるp27発現抑制のメカニズムとユビキチン経路の関与について明らかにし、ユーイング肉腫の新しい分子標的治療法の開発につなげることである。本年度においては以下の実験を行った。各種ユーイング肉腫細胞株を用い、p27分解に関与することが知られているユビキチンリガーゼSCF複合体のコンポーネントSkp1、Skp2、Cul1、Rbx1の発現をRT-PCRおよびウェスタンブロット法にて検討した。EWS-Fli1発現をsiRNAのトランスフェクションにより抑制すると、ユーイング肉腫細胞内のSkp2の発現量が特異的に減少した。EWS-Fli1の発現量とSkp2の発現量はパラレルの関係にあった。また、各種ユーイング肉腫細胞株を用い、細胞内でのp27蛋白質のユビキチン化について免疫沈降法およびウェスタンブロット法にて検討した。EWS-Fli1によって、ユーイング肉腫細胞内のp27ユビキチン化が促進されることが判明した。以上の結果より、EWS-Fli1はskp2の発現を増強させ、その結果p27蛋白質のユビキチン化を起こし、蛋白分解を誘導している可能性が示唆された。
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