研究概要 |
ユーイング肉腫では、特異的染色体転座t(11:22)の結果異常な融合遺伝子EWS-Fli1が生じる。この融合遺伝子産物はユーイング肉腫の発がん原因と考えられている。これまでに我々は、EWS-Fli1が癌抑制遺伝子Rbに関係した細胞周期制御因子(p27,p21,cyclin E)を標的とし、これらの同定されたEWS-Fli1の標的遺伝子の中で、p27発現レベルの低下がユーイング肉腫患者の最も強い予後予測因子であることを明らかにした。しかし、EWS-Fli1によるp27発現抑制の分子機構は不明である。近年、p27の発現調節は主として蛋白質分解のレベルでなされており、その分解にはユビキチン・プロテアソーム系が関与していることが示された。また、いくつかの癌種において、ユビキチン系の活性異常が報告されているが、ユーイング肉腫に関する報告は殆どない。本研究の目的は、EWS-Fli1によるp27発現抑制のメカニズムとユビキチン経路の関与について明らかにし、ユーイング肉腫の新しい分子標的治療法の開発につなげることである。 ユーイング肉腫細胞株にプロテアソーム阻害剤を投与すると、細胞内のユビキチン・プロテアソーム活性が抑制され、p27発現は有意に増加し、ユーイング肉腫細胞の増殖が抑制された。また、ヌードマウス皮下に移植した腫瘍に対しても、in vivoで腫瘍増殖抑制効果が確認された。一方、我々の樹立した多剤耐性ユーイング肉腫細胞株においては、プロテアソーム阻害剤による増殖抑制効果が認められなかった。これはプロテアソーム阻害剤が、薬剤排泄ポンプの基質となるためであり、ポンプ阻害剤の併用により、プロテアソーム阻害剤の耐性株に対する効果が回復した。ユビキチン・プロテアソーム活性の抑制は、ユーイング肉腫に対する有望な分子標的治療となりうると考えられた。
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