研究概要 |
ステロイド剤は肝薬物代謝酵素であるCYP3Aにより不活化され、代謝されなかった部分が標的細胞に至り薬作用する。この酵素活性は個体差が大きいことが知られており、その活性低下はステロイド剤の過度の薬理効果をもたらし、ステロイド性大腿骨頭壊死症(ION)発生の素因となっている可能性がある。そこで我々は、ステロイド性ION患者26例、アルコール性ION患者29例、健常人75例を対象として、CYP3A活性を測定し、解析を行った。その結果、ステロイド性ION患者のCYP3A活性は健常人(7.7±1.8vs.11.4±3.5mg/kg/min、p<0.001)及び、アルコール性ION患者より有意に低値であった(10.6±2.8mg/kg/min、p<0.001)。多変量解析の結果、CYP3A活性低値はステロイド性ION発生のリスクを約9倍高めていた(adjusted OR 9.08,p<0.001)。CYP3A活性の低侵襲的な測定を目的とし、1'-OH midazolam/midazolam ratioを算出した結果、ミダゾラム投与後45分値がCYP3A活性と最もよい相関性を示し、1回採血法による簡便なリスク予知検査の可能性が示された(r=0.75,p<0.001)。これらの結果より、ステロイド性ION患者は肝CYP3A活性低値のために、ステロイド剤の薬理効果が過剰になり、中毒効果としてステロイド性IONを発生したと考察した。これらのハイリスク患者を同定するために、低侵襲的な1回採血によるsingle point 1'-OH midazolam/midazolam ratioは有用であると考えられる。
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