研究概要 |
本研究の目的は、ヒト小胞体シャペロン(BiP)による慢性関節リウマチ(RA)患者の関節炎抑制効果を検討することにある。一昨年度は、BiPのRA滑膜細胞増殖能に対する抑制効果を観察し、BiP投与群では対照のHSA投与群に比べて有意にその重量が減少、また組織の炎症の程度はBiP投与群で有意に低いという結果を得た。昨年度はその作用機序を解明すべく、BiPはin vitroでヒト末梢血中の単球からの抗炎症性サイトカインであるIL-10の大量分泌を引き起こすことが明らかになっているので、IL-10抗体の同時投与によりBiPの効果が抑制されるかどうかを検討した。SCID-HuRAgマウスの作成は、既報に従い行った。RA患者滑膜組織を移植4週間経過後、BiPを静脈注射により投与した。IL-10抗体の投与はBiPの投与直前と48時間後、96時間後の3回行い、BiP投与後8日で移植組織を摘出した。摘出した移植組織の重量を測定し、摘出したヒトRA滑膜組織は4%パラフォルムアルデヒドにより固定し、パラフィン切片または凍結切片を作成した。パラフィン切片標本はHE染色後、病理評価を行った。摘出した移植組織の一部はウェスタンブロッティング又はRT-PCRによる各種サイトカインの検出用に凍結保存した。また、移植組織摘出時にSCID-HuRAgマウスより採血し、血清中のヒト型IL-10, IL-6をELISA法により測定した。その結果、前回と同様血清中にIL-10の分泌量増加は見られなかったが、IL-6についてはBiP+IL-10抗体投与群に比べてBiP投与群ではその分泌を抑制する傾向が見られた。以上の結果より、BiPはRA滑膜細胞増殖能に対する抑制効果を示し、その作用機序としてRA滑膜組織中のT細胞によるIL-10の分泌を介したものであることが示唆された。本年度はこれらの結果をさらに詳細に検討し、データの統計処理を行い、論文作成を行った。現在、投稿中である。
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