研究概要 |
H17年度の研究の目的は,ラットに投与した抗うつ薬が脊髄でGABA作動性ニューロンを賦活することを,免疫組織学的手法で明らかにすることであった。実験実施計画に従い以下の実験を行った。使用するラットは当初はFischer系統の予定であったが,一般性を重視してWistar系統を使用することとした。まず,三環系抗うつ薬のアミトリプチリン60μgを6%ブドウ糖液に溶解して,ラットの脊髄くも膜下腔に投与した。くも膜下腔投与はハミルトンシリンジを使用し,腰椎への直接穿刺法により行った。2または3時間後に過量のペントバルビタールを投与した後,パラフォルムアルデヒドで組織を固定し脊髄を摘出した。摘出した脊髄の腰膨大部を,ミクロトームにより厚さ30μmの切片に切断し,免疫組織染色によりc-Fosタンパクを染色した。この結果,投与3時間後には腰髄後角でc-Fosの発現が認められた。このパイロットスタディを基にして,アミトリプチリン60μgを腰椎から脊髄くも膜下腔に投与して,投与後0,1,2,3,4および5時間後の脊髄におけるc-Fosの発現を,免疫組織染色により検討した。その結果,腰髄切片でのc-Fos陽性細胞数は,時間経過に従って46.2,47.1,58.2,68.2,103.1および65.6(各群n=4の平均値)となり,投与4時間をピークとして脊髄後角でc-Fos陽性細胞が発現することが明らかとなった。また6%ブドウ糖のみを脊髄くも膜下投与した場合は,投与4時間後のc-Fos陽性細胞数は45.5であり,アミトリプチリン投与4時間群に比べて有意に少なかった。頸髄においてはいずれの投与時間においてもc-Fos陽性細胞の増加は認めなかった。次に,アミトリプチリン投与4時間後の腰髄について,厚さ16μmの切片を作成し,c-FosとGAD(GABAの合成酵素)に対する蛍光二重染色を行った。脊髄のIIIからVI層においてはc-Fos陽性細胞の80%以上がGAD陽性であり,また,I, II層では60%以上がGAD陽性であった。以上から,脊髄くも膜下腔に投与したアミトリプチリンは脊髄後角においてGABA産生細胞を賦活することが示された。アミトリプチリンを腹腔内投与した場合については,今後検討する予定である。
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