研究概要 |
SD系ラットを対象にした研究で、前年度までに麻酔は施行後約一週間に亘り睡眠覚醒周期に影響を及ぼし、睡眠物質(睡眠関連サイトカイン等)の動態にも影響を及ぼすことが示唆された。即ちケタミン麻酔当日はノンレム睡眠増加、以後対照値より一過性に減少(3,4日目が最低)した。レム睡眠は逆に対照値より徐々に増加(3,4日目が最高)した。一方、ペントバルビタールはケタミン同様、当日にノンレム睡眠が増加するが、その後は単純に対照値に戻り、レム睡眠はケタミンと同様に対照値より徐々に増加(3,4日目が最高)する傾向があった。ラットの脳内サイトカイン(IL-1β、TNFα、IL-2、IL-4、IL-10)を視床下部、大脳皮質、海馬、橋の各部位について定量した。その結果ケタミン100mg/kg腹腔内投与後1時間では視床下部、橋でIL-1β増加傾向にあった この結果の意義について神経伝達物質との関連の面から検討した。睡眠関連サイトカイン(IL-1等)は脳内のノルアドレナリン作動性神経を活性化する事が報告されている。一方、以前我々はマイクロダイアリシス及び大脳皮質切片を用いた研究で様々な麻酔薬が脳内のノルアドレナリン作動性神経の活性に影響を及ぼすことを見いだした。同神経は睡眠覚醒のみならず、体温血圧などの自律神経活動も司っているため、麻酔後の睡眠障害やシバリング、心筋梗塞など複数の合併症の機序にサイトカインーノルアドレナリンという連関が関与していると仮定できたからである。本年は初段として脳内のノルアドレナリン作動性神経特異的毒素のDSP4を投与されたラットでは自身の対照値と比ベケタミン、チオペンタール共に麻酔時間が有意に短縮した。以後、このモデルを用い、麻酔後の睡眠変化、サイトカイン動態の変化を定量し、周術期の合併症とサイトカイン-ノルアドレナリン連関との関係を引き続き検討してゆきたい。
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