研究概要 |
細胞がストレスに曝露されると、一連のストレス蛋白質(heat shock protein, HSP)が誘導される。HSPはその分子量によって、高分子量HSPと低分子量HSPの2つのグループに分けられている。高分子量HSPは生体防御において分子シャペロンとして中心的役割を果たすことがよく知られている。一方、低分子量HSPはリン酸化によりその機能が修飾されることが報告されている。αB-crystallinは以前、レンズ特異的蛋白質と考えられていたが、今日低分子量HSPファミリーの一員であり、骨格筋をはじめ種々の組織に存在することが報告されている。その中でも、αB-crystallinは心臓に豊富に存在し、心臓で最も多く含まれる低分子量HSPである。最近、αB-crystallinの過剰発現が心筋細胞を虚血障害から保護することが報告されたが、その作用の詳細は未だ明らかとされていない。一方、血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor ; PDGF)は強力な細胞増殖因子であり、生体内で二重体(AA,AB,BB,CC,DD)として存在する。心血管系組織においてPDGFは血管新生作用を示し、心臓の発生にも関与することが知られている。これまでにPDGF-BBが心筋梗塞ラットモデルの心機能を改善することが報告されている。本研究では、心筋梗塞とαB-crystallinのリン酸化との関連及びPDGF-BBの関与について検討した。この検討の結果、1)冠状動脈結紮により、心筋のαB-crystallinは時間依存的にリン酸化されること。2)冠状動脈結紮により、血漿中のPDGF-BBの濃度は時間依存的に上昇すること。3)PDGF-BBは、心筋細胞においてαB-crystallinを時間依存的にリン酸化すること。4)p38MAPキナーゼ阻害剤であるSB203580はPDGF-BBによるαB-crystallinのリン酸化を抑制することが明らかとなった。 以上の結果から、心筋梗塞により、血中に分泌されたPDGF-BBがp38MAPキナーゼの活性化を介して心筋のαB-crystallinをリン酸化し、心筋を保護する可能性が示唆された。
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