研究概要 |
患者ごとに満足できる周術期の鎮痛を計ることを目標に、痛覚閾値の個体差に着目し(1)女性患者における性周期からみた術後痛の管理戦略、(2)動物モデルにおいて食餌中の植物性エストロゲンと痛覚閾値との関係を検討した。 月経を有する年齢の女性では,(1)月経周期中期(10〜19日)が最もレスキュー鎮痛薬の要求が少なく、かつ、疼痛の自己評価の程度とレスキュー鎮痛薬使用量に強い相関があった。(2)月経周期後期(20〜30日)の女性が最もレスキュー鎮痛薬の要求が多いが、疼痛の自己評価の程度と鎮痛薬使用量に乖離を認めた。(3)閉経後の女性患者では疼痛の自己評価の程度とレスキュー鎮痛薬要求量のばらつきが非常に大きかった。月経を有する年齢の女性においてレスキュー鎮痛要求量(Y)と月経発来日・手術日数(X)の間にはY=0.01×2-0.167X+4.847のカーブフィットがもっとも一致した。 四種類(イソフラボンを含む飼料MF、イソフラボンを含まない飼料NIH-07PLD、ダイゼイン添加NIH-07PLD飼料(Diz)、ビオカニンA添加NIH-07PLD飼料(Bio)の飼料で飼育されたラットを対象とし、heat latency, mechanical sensitivityを指標に、痛覚閾値の変化ならびに1%カラゲニン皮下注による炎症性痛覚過敏の形成過程を検討した。痛覚閾値は食餌のイソフラボンによって影響を受けなかった。ダイゼイン添加食餌は1%カラゲニン皮下注による炎症モデルにおける痛覚過敏形成を有意に抑制した。痛覚閾値はエストラジオールやプロゲステロン血清レベルとは直線的な相関を作らなかった。一方、痛覚閾値は脊髄内もしくは血清ノルアドレナリン,ドパミンと直線的な相関を認めた。 患者ごとに痛覚閾値の個体差に配慮した鎮痛法の重要性を考察し、報告する。
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