冠動脈バイパス手術におけるグラフトの採取法として周囲組織を温存するpedicle harvesting法と周囲組織を可能な限り切除するskeletonization法がある。今回、Ultrasonic skeletonization法とpedicle harvesting法で採取された内胸動脈(ITA)グラフトおよび胃大網動脈(GEA)グラフトにおいて、血管内皮機能・平滑筋機能を、等尺性張力測定実験を用いて比較検討した。 Skeletonized ITA(n=50)、pedicled ITA(n=30)、skeletonized GEA(n=50)、Pedicled GEA(n=30)採取時に生じる末梢の廃棄部分から幅2mmの動脈リング標本を作成した。37℃に加温したKrebs液を灌流したorgan bath内でリングの等尺性張力測を測定した。2時間の温浴で血管の安定性が得られた後、KCL(100mmol/L)を加えたKrebs液で30分ごとに7分間灌流しKCL収縮を得た。その後、10^<-9>-10^<-4>mol/Lノルアドレナリンを灌流し収縮力のdose response curveを得た。その収縮力の中央値に近い10^<-6>mol/Lノルアドレナリンで灌流し前収縮をさせた状態で、10^<-10>-10^<-5>mol/Lアセチルコリン、10^<-10>-10^<-5>mol/L亜硝酸イソゾルビド、10^<-10>-10^<-5>mol/Lジルチアゼムを灌流し、ノルアドレナリンの前収縮に対する弛緩の割合を測定した。 本研究で得られた知見は以下の通りである。 1)KCL、ノルアドレナリンによる収縮とジルチアゼム、亜硝酸イソゾルビドによる拡張はskeletonize、pedicle間で有意差は無かった。血管平滑筋機能はよく温存されている。 2)アセチルコリンでpedicled graftがskeletonized graftよりも有意に弛緩した。ultrasonic skeletonizationによる内皮機能障害があると示唆された。 3)以上より、ultrasonic skeletonizationによる採取時には血管への接触を最小限にするための細心の注意を要し、亜硝酸薬、カルシウム拮抗薬の術後投与はgraft hypoperfusionのリスクを軽減させると考えられた。
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