研究概要 |
疼痛発生のメカニズムは脊髄レベルでの機序が解析され始めG蛋白結合受容体(GPCR)が疼痛発生に関与しているという報告がなされてきた。しかし,麻酔薬や鎮痛薬がこれらの受容体にどのように影響を与えて鎮痛作用を引き起こしているかはいまだに結論が出ていない。脊髄後根神経節(Dorsal Root Ganglia,DRG)細胞は多くの神経ペプチドが含有され,一次求心性線維中枢側から急性侵害刺激により遊離され,グルタミン酸受容体が侵害刺激に関与していることが示唆されている。メタボトロピックグルタミン酸受容体(mGluR)はグルタミン酸が作用するGPCRで,』同じGPCRであるムスカリン受容体などとは大きくその構造が異なる。mGluRが痛覚伝達や麻酔鎮痛機序にどのように作用しているのか興味深い。 本年度は昨年度に引き続いて脊髄レベルでの麻酔薬,鎮痛薬の抗侵害作用におけるmGluRの役割を解析することを目的に次の研究を行った。培養DRG細胞を用いて麻酔薬,鎮痛薬がmGluR1,mGluR 5にどのように影響するかを検討し,細胞内Ca^<2+>の変動に対する麻酔薬,鎮痛薬の影響を解析した結果,グルタミン酸により細胞内Ca^<2+>は上昇することを確認できた。さらに,アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いてmGluR1,mGluR 5に対する影響を電気生理学的に解析し,mGluR1には麻酔薬デクスメデトミジンが抑制する事実を確認した。また,吸入麻酔薬,エタノールの一部も抑制することを確認できた。本年度はこれらの反応に細胞内リン酸化酵素が関与するのかについて解明を急いでいたが,研究期間の間には結論を得られなかった。今後はmGluRノックアウトマウスを用いて行動薬理学的に鎮痛薬,麻酔薬の抗侵害作用を検討し,麻酔薬,鎮痛薬の抗侵害作用におけるmGluRの役割を総合的に解析したいと考えている。
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