研究概要 |
精子形成回復関連タンパクの同定 精子形成に関与する遺伝子や、抗ガン剤によって選択的に破壊される遺伝子情報を収集した結果、減数分裂に関与する遺伝子が候補遺伝子のひとつであることが明らかになった。減数分裂で最も重要な過程は相同染色体の正確な分配である。相同組み換えは、組み換えホットスポットと呼ばれる相同組み換えが起きやすい部位での一過的なDNA二本鎖切断(double strand breaks : DSB)によって開始されるとされる。DNA間の相同性の検索とその交叉反応において、中心的な役割を果たしているのが真核生物ではRad51やRad52,Rad54,Rad55,Rad57,DMC1,Rpa1などのタンパク質群である。これらの遺伝子をノックアウトしたマウスでは、RAD51がDMC1の機能を相補できないことが報告され、DMC1(GenBank、NM_007068)の産物タンパクが相同染色体間の相同性のみを認識し対合させると考えられ、とくに減数分裂時に特異的な機能を持つ。本研究で明らかになったことは、DMC1の遺伝子産物についての検討である。われわれはDMC1が抗がん剤の治療を受けた不妊症患者で3つの選択的スプライシング転写物のうち一部が欠失することを明らかにし、これらの転写物が、精細胞系の制御を行っている可能性を示した。各選択的スプライシング産物であるイソフォームタンパクのモチーフやドメインが修飾された結果、精細胞のアポトーシスを誘導する可能性も考えられた。本遺伝子のスプライシングバリアントが減数分裂の制御に関与し、その結果精子形成能に影響を与えることを明らかにした。総括すると、精子形成不全のひとつの可能性として、DNA間の相補性を認識するという機構、すなわち相同染色体を認識の破綻により、減数分裂不全が生じ、精子形成不全が惹起されている。DMC1はこれらの機構を説明できる、ひとつの有力な候補遺伝子であることを明らかにした。
|