本研究は、ヒト膀胱癌細胞株にレトロウイルスベクターを用いてalternative splicingによりC末領域を異にするperiostinを導入し、転移・浸潤に及ぼす影響の解析と、periostinと結合する蛋白の同定、解析によって、尿路上皮癌悪性化に関わる転移・浸潤に対するperiostinの作用機構を明らかすることを目的に行った。 本研究で以下の知見が得られた。 1.ヒト膀胱組織におけるperiostin transcript variansの発現を、RT-PCR法により検討した結果、正常なsplicingで生じるtranscript(WT)は、正常膀胱組織では100%発現したが、膀胱癌組織では発現しなかった。一方、alternative splicingで生じるtranscript variantsは、正常膀胱組織だけでなく、膀胱癌組織(45%)でも高頻度に発現した。 2.免疫染色の結果、periostinは、膀胱正常組織の間質に層状に分布したが、癌組織では消失していた。 3.ヒト膀胱癌細胞株にperiostin variantsをレトロウイルスベクターにより導入し浸潤能を検討した結果、C末領域の3つのexonを欠失したvariantではWTの持つ浸潤抑制効果が減少した。 4.WTのperiostinに結合するタンパク質としてTAB1を同定し、TAB1と結合してMAPK経路を活性化するTAK1が、periostinを発現させるとリン酸化し活性化した。 これらの知見から、WT periostin transcriptの発現が癌の浸潤・転移抑制と密接に関連し、variantsは、必ずしも癌の浸潤・転移に抑制的に働くものではないことが解った。WT periostinの転移・浸潤抑制の作用機構として、膀胱組織の構造維持とTAK1を介したMAPK経路の関与が示唆された。
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