DNAメチル化等のエピジェネティックな変化に起因して生じる癌関連遺伝子の不活化は、種々の癌の発達にしばしば関与している。腎細胞癌(RCC)において異常なメチル化により不活化されている遺伝子の同定を目的として、MCA/RDA法によるゲノムワイドなメチル化部位解析を、二系統の腎癌培養細胞株を用いておこなった。その結果、27個のCpG islandが同定された。原発性腎細胞癌症例で、これらのCpG islandのメチル化状態をCOBRA法により解析したところ4つのCpG islandが癌特異的なメチル化を示すことがあきらかになった。このうち一つはhuman homeo-box gene B13(HOXB13)遺伝子と同定されたが、残りの三つのCpG islandに既知の遺伝子との関係は認められなかった。原発性腎細胞癌症例および腎癌細胞株におけるHOXB13遺伝子のメチル化頻度は、それぞれ30%および73%であった。HOXB13遺伝子のメチル化とその発現の消失には、原発性腫瘍および腎癌細胞株のいずれにおいても相関が認められ、またメチル基転移酵素阻害剤処理により発現が回復された。HOXB13非発現腎癌細胞にHOXB13遺伝子を発現させたところ、コロニー形成が抑制されるとともにアポトーシスが誘導された。さらに、HOXB13のメチル化と腫瘍のグレードおよび静脈浸潤には正の相関が認められた。 本研究によりHOXB13遺伝子はアポトーシスを誘導することで細胞増殖を抑制する新規癌抑制遺伝子と考えられ、そのエピジェネティックな不活化が腎臓癌発症と悪性化に関わることが示された。HOXB13は腫瘍特異的メチル化を示すことから、腎癌早期発見のための新規腫瘍マーカーとして有望であると考えられ、またメチル化阻害剤等を用いる新規治療法の標的遺伝子ともなりえることが示された。
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