研究概要 |
これまでにヒト外尿道括約筋衛星細胞を分離培養し、この増殖に肝細胞増殖因子(HGF)及びインスリン様増殖因子-1(IGF-1)が関与していることを明らかにしてきた。今回、両増殖因子がこれらの細胞の分化に関与しているかを検討した。 方法 前立腺全摘出術時に微量採取した外尿道括約筋から抗NCAM抗体を用いたMACS法によりヒト外尿道括約筋衛星細胞を分離培養し、温度感受性SV40Tagを遺伝子導入して長寿化した。培養は33℃条件下で行い、筋分化誘導は分化誘導培地に変更後、39℃条件下にて行い、HGFおよびIGF-1をそれぞれ1,10,100ng/ml添加し1,3,7日後のミオシン重鎖(MHC)の発現をreal time RT-PCRにて検討した。また、主要なシゲナル伝達経路であるMAPK経路、PI3-Kを介する経路についてもWestern Blot法にて検討を行った。 結果 39℃条件下にて分化誘導培地に変更後、遺伝子非導入群と同様に7日目にはSV40Tagは失活、また細胞は融合、多核化し筋管細胞の形成が認められた。またreal time RT-PCRにてミオシン重鎖の有意な発現の亢進が認められ、横紋筋由来の性質を保持していた。HGFは濃度依存的に筋分化を抑制する傾向がみられたが、逆にIGF-Iは100ng/mlで筋分化を有意に促進した。外尿道括約筋幹細胞のシグナル伝達経路において、HGFはMAPK経路を活性化するのに対し、IGF-IはPI3K経路を活性化していた。 考察 ヒト外尿道括約筋衛星細胞の増殖はHGF及びIGF-1によって促進される。今回の筋分化誘導の実験では、HGFでは有意な差が認められなかったが、IGF-1は外尿道括約筋衛星細胞の分化を促進した。したがってIGF-1は外尿道括約筋の増殖と分化の両方を促進する可能性があり、外尿道括約筋再生に有用と思われた。
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