研究概要 |
【目的】慢性拒絶反応の解明と克服は、現在の移植医療が抱える大きな課題である。近年、移植後に出現する抗HLA抗体が、慢性拒絶反応の発症に大きく関わるとのデータが欧米からの報告を中心として蓄積されつつある。我々は、日本人腎移植患者についてこれらの知見および可能性を検証した。 【方法】北里大学病院で腎移植を受けた患者85例を対象に、2003年から2006年にわたり最低1年間隔で血清を採取した。HLA class Iおよびclass II screening beads (PRA beads)に患者血清を加え反応後洗浄した。2次抗体としてFITC抗ヒトIgGまたはIgM抗体を加え反応後洗浄し、Flowcytometerを用いて測定した。ドナー末梢血が入手可能であった症例では、ドナー特異性も検証した。 【結果】85症例のうち、観察期間中に抗HLA抗体(抗class I, class II, IgG, IgM)が全く検出されなかった陰性維持例は計32例(38%)観察され、それらの症例における血清クレアチニン(Cr)値はほぼ低値または中間値で安定していた。陽性抗体の種類が変動せず維持された例は5例(6%)であり、Cr値はほぼ2近辺の値を維持した。観察期間中に新たに抗体が出現した24例(28%)のうち、IgGが出現した2例、およびIgMが出現した1例ではCr値が顕著に悪化した。他の症例ではCr値は低値または中間値で安定していた。抗体が観察期間中に消失した21例(25%)のうち、IgG消失1例ではPRAおよび1次移植ドナーに対する抗体の消失とともにCr値の改善が見られたが、他の1例では抗体消失後もまだ改善に至っていない。また、IgM抗体消失2例ではドナーに対するIgG抗体が維持され、Cr値は悪化した。抗体が出現後、1年以内に消失した例は計3例(4%)であった。これらの症例すべてをまとめて、抗体陰性維持群と陽性群においてCr値の平均値および悪化症例数を比較したが統計的有意差は検出されなかった。
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