橋排尿中枢(Barrington核)はこれまで仙髄節前ニューロンに直接結合すると考えられてきた。しかし今回記録した仙髄節前ニューロンの全例において、Barrington核の電気刺激による単シナプス性EPSPは観察されなかった。誘発されたEPSPは多シナプス性であり、Barrington核は膀胱を支配する仙髄節前ニューロンと多シナプス性結合していることが明らかにされた。この多シナプス性EPSPは排尿収縮時に著明に誘発されたが、膀胱弛緩時には殆ど誘発されず、膀胱収縮依存性であることを明らかにした。またBarrington核の電気刺激は、骨盤神経膀胱枝の電気刺激によって節前ニューロンに誘発される脊髄性IPSPを抑圧した。これらの結果は、Barrington核は介在ニューロン群の賦活化あるいは抑圧の解除により排尿収縮を起こすという研究代表者の仮説を裏付けた。なお、仙髄排尿中枢の介在ニューロンには、排尿収縮時に活動が増大するニューロンの他に、排尿収縮時に活動が減少するニューロンがあることを見いだしている。一方、外尿道括約筋運動ニューロンの細胞内記録法により、膀胱-外尿道括約筋反射は脊髄性には興奮、上脊髄性には抑制であること、上脊髄性経由核であるBarrington核は膀胱節前ニューロンを多シナプス性に興奮させるとともに、仙髄後灰白交連ニューロンを介して外尿道括約筋運動ニューロンを抑制し、排尿を円滑に遂行させることを確証した。さらに本研究は、脳幹から仙髄節前ニューロンへの下行路はBarrington核以外に2経路存在することを示唆した。一つは橋・延髄網様体ニューロンからの単シナプス性興奮性結合であり、もう一つの経路はBarrington核近傍の橋吻側網様体逆相ニューロンからの多シナプス性抑制性結合である。排尿における両者の機能的な役割については今後さらなる検討が必要と思われる。
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