研究概要 |
ヒト腎細胞癌における第5染色体長腕のトリソミー役割を調べるために,染色体異常の解析および間期核を対象としたFISH法の解析により第5染色体長腕のコピー数(2,3,≧4)により腎癌を分類し,各グループにおける患者さんの術後の生存率を調査した。その結果,これまでの傾向と同様に術後120ヶ月で観察すると≧4コピーのグループは明らかに2,3コピーのグループよりは予後は不良であった。≧4コピーのグループに属する腎癌の多くは転移性の腎癌であった。また,術後60ヶ月で観察すると2倍体をバックグランドとして3コピーを持つ症例は2コピーの症例よりも予後が不良である傾向が確認された。これらの結果を受けて,本年度は2倍体のバックグランドで第5染色体を2コピーだけ持つ細胞株(非乳頭型1例,乳頭型2例)に微小核細胞融合法により正常細胞由来の第5染色体を導入し,得られた融合細胞の細胞生物学的性質を解析した。非乳頭型細胞株では第5染色体全体が導入されたクローンが得られなかったが,細胞増殖性に若干の抑制が認められた。一方,乳頭型細胞株では2株いずれにおいても第5染色体全体が導入されたクローンが得られた。これらのクローン細胞における細胞増殖性を解析したところいずれのクローンにおいても顕著な増殖抑制が認められた。これらの結果から,乳頭型腎細胞癌の発生に関わるがん関連遺伝子が第5染色体長腕に存在する可能性が示唆される。しかも,もし,相同染色体の領域に第二次の変化が生じていないとすれば1個の突然変異が発がんに何らかの役割を担っている可能性がある。第5染色体が3コピーになっている症例では術後の生存率が良好である傾向が認められているが,これは正常対立遺伝子の方が1コピー増加し,その遺伝子産物が腎癌細胞の増殖に何らかの抑制効果を示していることが予想される。また,このことは,突然変異を持つ第5染色体が増加すれば,逆に,がん細胞の急速な増殖をもたらす可能性も考えられる。転移性の腎癌で第5染色体を≧4コピーもち,予後が不良な症例ではむしろ突然変異を持つ遺伝子が増幅していることも考えられる。今後は,第5染色体の癌関連遺伝子の探索および突然変異の同定をする必要がある。
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