研究課題
基盤研究(C)
子宮頸がんは扁平上皮がんの組織型を主とした悪性腫瘍であるが、近年、腺癌の発症が増加している。この子宮頸部腺癌は通常の扁平上皮癌と比べて、若年者に多く発症する傾向があり、その予後も扁平上皮癌と比べて不良であるとされる。子宮頸がんの発症には通常その約95%においてヒトパピローマウイルスの感染が関与するとされている(文献1)。子宮頸部扁平上皮癌では、検出されるヒトパピローマウイルスは16型がもっとも頻度が高いことが知られ、一方子宮頸部腺癌では検出されるヒトパピローマウイルスは18型がもっとも頻度が高いことが知られている。子宮頸部扁平上皮癌と子宮頸部腺癌ではそれ以外にもいくつか黒なる臨床像があり、後者では前者に比べ、発症年齢が若年であること、臨床的予後がより不良であることが知られている。一方、18型のヒトパピローマウイルス感染陽性の子宮頸部腺癌は16型ヒトパピローマウイルス感染陽性の子宮頸部扁平上皮癌に比べ有意に不良な予後を示すことより、18型のヒトパピローマウイルスは16型ヒトパピローマウイルスに比べ、強い癌化能を持つと推測される。ヒトパピローマウイルスはE6およびE7という二つの座遺伝子をもつ。それらの遺伝子産物であるE6,E蛋白はそれぞれヒトの癌抑制蛋白p53,pRbと結合し、それらの癌抑制蛋白の機能を阻害することで癌化に寄与すると考えられる。E6蛋白はp53と結合する際にヒトの細胞蛋白であるE6APを必要とする。E6APはubiquitin-protein ligaseであり、E6蛋白はp53およびE6APと3量体を形成し、ターゲットとするp53に分解のマーカーとなるubiquitinを付加し、枝状にいくつものubiquitinを付加されたp53はプロテオソームで認識され、分解を受ける。本研究において、用いた分子生物学的手法は大腸菌の中でGST fusion蛋白としてE6APを発現させ、GST fusion蛋白としてE6蛋白を発現し、GST pull-down法により、その結合蛋白の同定を試みた。細胞抽出液として、ヒトパピローマウイルス陰性の細胞株を用いた。このGST fusion E6蛋白に選択的に結合する蛋白を銀染色をしたSDSゲルから切り出して、ペプチドマススペクトロメトリー(PMF)解析により解析した。本研究により、新規に同定されたE6の結合蛋白は乳癌において遺伝子の欠失が報告されているdeleted in breast cancer-1 (DBC-1)であった。In vitroで発現させたDBC-1はE6の存在下では時間依存性に分解を受けた。DBC-1はアポトーシスの誘導により核移行シグナルを失い、ミトコンドリアに移行し、ミトコンドリアの凝集を来す。DBC-1との結合能は、16型に比べ、腺癌に関連する18型のE6蛋白はより強いことが判明した。細胞内におけるDBC-1の発現は、E6もしくはE6APに対するRNAi導入により著明にup-regulationされることより、DBC-1はHPV陽性細胞において、E6およびE6AP依存性に分解を受けていることが明らかとなった。以上の結果により、HPV陽性の子宮頸癌においては、DBC-1のアポトーシス過程における機能はE6による分解により阻害されており、遺伝子の欠失を認める乳癌同様に子宮頸癌の発癌過怪に重要な働きをもつことが示された。
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