研究概要 |
【目的】近年では、子宮付属器捻転が発症しても、捻転解除により妊孕性を温存する術式が選択されるようになってきた。付属器温存術の増加に伴い、茎捻転解除により卵巣が受ける影響が注目され、その機序が解明されてきた。一方、卵管が受ける影響に関しては未知の点が多い。本研究の目的は、動物実験により、卵管がどれだけの時間捻転による虚血に曝されると、捻転解除後にも持続する通過障害を発生するのか、を明らかにすることである。 【方法1】16週齢の雌ウサギ(Japanese White Rabbit種)を用いて付属器捻転モデルを作成した.(1)ネンブタール静脈麻酔下に、下腹部正中縦切開を加えて開腹する.(2)卵巣間膜の無血管部位を22GのJELCO針^<【○!R】>で穿刺し、外套を留置する.(3)この外套を軸にして、卵巣と卵管を3回(1080度)捻転させ、3-0 Vicryl糸を用いて腹膜に固定する.(4)捻転下に置かれる時間を、24H,72H,120H,240H,720Hと変化させて再開腹を行い、卵巣と卵管を摘出し、検討に供する.(5)対側の子宮付属器はcontrolとする。【方法2】採取した検体にHE染色を行い、組織学的な検討を行った。電子顕微鏡を用いて、超微細構造の検討も行った。【方法3】採取した検体にTUNEL(TdT-mediated dUTP-biotin Nick End Labeling)染色を施し、アポトーシスに陥った細胞の有無を調べた。標本は、apoptosis scoreにより、定量化した。 【結果1】各群6羽ずつの検討とした。ネンブタールの呼吸抑制が原因と思われる術中死が2羽に起きたが、それ以外の脱落例はなかった。【結果2】(1)720Hの捻転後も、卵管には明らかな組織学的変化が起きなかった.(2)一方、卵巣には、72Hの捻転で間質部に大きな出血巣が出現するなどの著明な変化が現れた。【結果3】(1)卵管に関しては、apoptosis score上、720Hの捻転後も有意な変化は起きなかった.(2)卵巣は、72Hの捻転でアポトーシスに陥った。 【結論】(1)16週齢のウサギを用いて、卵管捻転の動物モデルを作成した.(2)卵管は、捻転によるダメージを受け難い臓器である.(3)卵管は、その血管支配の巧妙さ故に、このような特性を持ち得たと考える.この事は、哺乳類の生殖機能を考える上で重要である.(4)子宮付属器捻転の際にも、多くの症例で、卵管を温存することが可能であろう.本研究は、子宮付属器捻転の術式を選択する上で、重要な基礎データを提示した.
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