研究概要 |
近年増加傾向にある卵巣明細胞腺癌(CCC)はHER-2が過剰発現しており,その化学療法低感受性との関連が示唆されている.またCCCはp53変異の頻度が低いことが知られている.一方,アデノウイルス5型E1A蛋白は,HER-2発現を抑制するとともにp53を安定化し殺細胞作用を示す.本研究では,CCCに対するアデノウイルスE1A遺伝子治療の有効性を明らかにすることを目的とした。 CCC由来細胞株10株(RMG-1,RMG-II,KK,KOC-7c,HCH-1,OVAS,OVISE,OVTOKO,OVSAYO,SMOV-2)を用いた.E1A遺伝子導入による細胞増殖抑制効果をコロニー形成試験で検索した.4株(RMG-1,OVTOKO,OVSAYO,SMOV-2)ではアデノウイルス5型E1A発現ベクター(Ad.E1A(+))のCCCに対する殺細胞効果をMTT assayおよびトリパンブルー排出試験で検討するとともに,E1A,HER-2,リン酸化Akt,p53,BaxおよびCaspase 9蛋白発現をウエスタンブロット法にて検索した. E1A遺伝子導入によりコロニー形成数は全ての細胞株で著明に減少した.Ad.E1A(+)はアポトーシスを誘導し細胞増殖を著明に抑制したが,HER-2モノクローナル抗体であるtrastuzumabによる細胞増殖抑制効果はみられなかった.Ad.E1A(+)はHER-2発現を抑制したが,リン酸化Akt発現の抑制はみられなかった.一方,E1A遺伝子導入後に,p53,Baxおよび活性化Caspase 9蛋白発現が増加した.p53 siRNAはE1A遺伝子導入によるアポトーシスならびに上記蛋白の発現を抑制した. 以上の成績から,卵巣明細胞腺癌に対するE1A遺伝子治療の有効性が示されるとともに,その作用機序にはp53依存性アポトーシスが関与していることが示唆された. 現在,卵巣漿液性腺癌およびCCC由来細胞株を用いて,E1A遺伝子導入と抗癌剤(パクリタキセル,シスプラチン等)との併用効果を検索中である.
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