研究概要 |
最近,siRNAが真核細胞のエピジェネティクスにも関与することが明らかとなり,ヒト培養細胞でも遺伝子転写制御領域を標的としたsiRNAの導入によって,CpGメチル化とH3-K9メチル化を介した転写ブロックが可能であることが報告された(Nature.431:211-7.2004)_。HPV E6・E7の発現は,LCR内エンハンサーとp105プロモーターによって制御されており,本課題ではsiRNAを用いてLCR内転写調節領域にあるCpGメチル化とH3-K9メチル化を誘導し,子宮頚癌の発生と維持に不可欠なウイルス癌遺伝子を"サイレンシング"させるシステムを確立することとした。これまで行ってきたsiRNAによるRNA分解に加えて転写ブロックが可能になれば,標的が異なるため併用によってさらに大きな効果が期待できると考えたのである。LCR内メチル化部位をカバーする21塩基のsiRNAを10種合成し,SiHa細胞に導入,メチル化誘導が行われれば転写ブロックによりE6・E7発現抑制が得られ細胞増殖も低下する結果が得られると予想し,これらsiRNAをSiHa細胞に導入,WST-1アッセイを行って単層増殖能を評価した。いずれのsiRNAにおいても増殖抑制効果はまったく認められず,導入条件をさまざまに工夫したり,siRNAを数種混合導入しても結果は同様で,SiHa細胞LCR内メチル化部位をカバーするsiRNAではメチル化誘導は起こしえないと結論した。 この間,平成17年9月に上記重要参考論文の著者である多比良和誠教授・川崎広明助手に論文捏造疑惑が生じ,翌18年12月27日付け東京大学による教員2名に対する懲戒解雇処分でその疑惑は確定した。遺伝子転写制御領域内のメチル化部位を標的にしたsiRNAがDNAメチル化を誘導し,蛋白発現抑制を惹起するという本研究の根幹に関わる報告が捏造であったのであるから本研究で良好な結果が得られるはずもなく,研究はその端緒で断念することを余儀なくされた。上記の単層増殖実験と平行してプロモーター欠失GFP発現ベクター,pEGFP-1にLCR配列(Bam HI fragment)を挿入したコンストラクトを作成し,C33a細胞に遺伝子導入,stableな発現クローンを選択するなど準備を整えたが,メチル化誘導自体が不可能なのであるからこれらの実験準備はすべて徒労に終わった。
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