研究概要 |
卵巣癌において最も重要な進展様式である腹膜播種の形成には,VEGF,HGFなどの血管新生因子が深く関わっており,我々はこれまでに,これらの因子を阻害するsoluble Flt-1(sFlt-1),IL-10,HGF/NK4をアデノ随伴ウイルスAAVベクター化し,卵巣癌腹膜播種モデルでの腹膜播種抑制,長期延命化に成功した。またAAVベクターの至適投与経路は骨格筋であること,筋への遺伝子導入にはAAVベクターの1型が最も効率が良いことを明らかにし,さらに血管新生因子搭載AAVベクターによる遺伝子治療を受けた動物で,重篤な有害反応がみられなかったことを報告した。 今年度は,これらの血管新生因子阻害遺伝子治療の耐性化機序究明を目的に検討を行った。すなわち様々な血管新生因子に対して広く阻害作用を有するHGF/NK4を対象に,マイクロアレイによる関連遺伝子の詳細な検索を行った。 その結果,1)HGF/NK4を遺伝子導入し,強制発現させた卵巣癌培養細胞HRA/NK4を樹立した。コントロールに比べてHRA/NK4はin vitroにおける細胞増殖,in vivoにおける腫瘍増殖に差はみられなかったが,in vitroにおける細胞遊走能およびin vivoにおける腹膜播種形成能は著しく低下していた。 HGF/NK4の血管新生抑制は,血管内皮細胞の増殖抑制よりも遊走能の抑制を介した作用である可能性が示唆された。2)HRA/NK4およびコントロールを対象にマイクロアレイによる解析を行った。コントロールに比べてHRA/NK4で2倍以上の発現増強のみられた遺伝子はproline dehydrogenase,porinなど22種であり,発現低下のみられた遺伝子はFLIP,EphB1,tyrosine kinase DDRなど12種であった。これらのうち,EphB1,tyrosine kinase DDRは,細胞の遊走に関与する遺伝子であり,HGF/NK4の血管新生抑制,腹膜播種抑制,作用の機序解明の上で注目された。 今後は,これらの候補遺伝子が耐性化獲得後にどのような発現変化を起こすかを詳細に検討することにより,血管新生抑制療法耐性化克服につなげていきたい。
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