研究概要 |
卵巣癌細胞における糖脂質発現と細胞生物学的特性および抗癌剤感受性の関連を検討した。卵巣明細胞癌は抗癌剤感受性が低く、また予後不良な組織型であることから、新たな細胞生物学的特性に関する解析が待たれている。一方、各種糖鎖のなかでH型糖鎖の抗原決定基(フコースα1,2ガラクトース)はGDPフコースβガラクトシドα1,2フコースにより合成されるが、H型糖鎖遺伝子を大腸癌細胞に導入するとアポプトーシス抵抗性の獲得、5-FUへの感受性の変化が報告されている。そこで、すでに我々は卵巣明細胞腺癌由来培養細胞株を用いてH型糖鎖遺伝子を導入する実験系を確立しているので、同実験系を用いてH型糖鎖遺伝子導入株における糖鎖変化や抗癌剤感受性を検討した。卵巣明細胞腺癌由来培養細胞株にマウスおよびヒトのフコース転移酵素遺伝子を導入すると、α1,2フコース転移酵素活性は約20〜30倍に増加した。糖鎖発現については1型糖鎖であるH1糖鎖や2型糖鎖であるルイスY型糖鎖の発現が増加し、一方nLc4CerやルイスX型糖鎖のシアル化が抑制された。このように卵巣癌由来培養細胞株へのH型糖鎖遺伝子導入によって、1型糖鎖および2型糖鎖のフコシル化が促進され、2型糖鎖のシアル化は抑制された。細胞生物学的特性に関しては、H型糖鎖遺伝子導入株はコントロール細胞に比べin vitroにおける腹膜中皮細胞への接着能が亢進した。また、H型糖鎖遺伝子導入株はコントロール細胞に比べ5-FU添加培地における生細胞数は増加した。したがって、卵巣明細胞腺癌細胞ではH型糖鎖遺伝子導入に伴うフコシル化の増加とシアル化の減少によって細胞の接着能が亢進し、また5-FUに対する感受性が低下する可能性が示唆された。
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