1.ヒト精子核DNAにおけるsingle strand break (SSB)観察の基礎的検討として、単一細胞のDNA fiberをできるだけ伸展する、fiber中のnickを検出する方法を検討した。新たにヨーイングモーション電気泳動法を開発し、位相を120度づつずらして3回泳動することにより各DNA fiberを0.5-1.0mm程度伸展させることができた。DNAポリメラーゼ-FITC-dArPを用いるnick translation変法によりDNA fiber中のnick部位を検出できた。大腸菌(DNA base数:約430万base)をマーカーとして、伸展ヒト精子DNA鎖長を推定したところ、最長のもので1000万base程度の連続したDNA fiberが得られた。 2.精子を低酸素環境で取り扱うため、酸素パージ可能な培養ボトルの開発を行った。すなわち、培養液に懸濁した精子は密閉可能なプラスチックボトルに収納し、酸素センサーを用いて酸素濃度が2.0%を維持した。 3.活性酸素の影響を観察するため、過酸化水素を培養液中に添加すると濃度依存性に2重鎖の切断が観察された。 4.一般的にDNAはアルカリ条件に安定であるとされてきたが、本研究で取り扱う1000万baseレベルのDNAは酸、アルカリに脆弱であり、その取り扱いに関しては、pH、活性酸素等に充分な注意が必要であることが明らかになった。 5.洗浄して精漿を除去した精子を抗酸化系因子を含まない培養液に懸濁して、空気中に放置するとSSBが増加する可能性が示唆された。この件に関しては次年度に精査して、精子をin vitroにおける精子取り扱いに関してどのように環境因子を整備すればDNAの物理的損傷を最低限とできるかを検討する。
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