当施設は、子宮癌の中では稀少な頚部腺癌と子宮内膜腺癌の両方の臨床材料が比較的入手しやすい環境にある。この特色を生かし、細胞遺伝学的手法により両腫瘍の発がん過程を比較解析し、分子遺伝学的診断、予防、治療に応用することを目的とした。 本年度も、(1)臨床材料収集(2)細胞培養(3)遺伝的不安定性の解析(4)遺伝的不安定性の標的遺伝子の変異分析(5)Comparative Genomic Hybridization法(CGH法)(6)発現アレイ法による解析を継続した。近年、子宮癌への化学療法が腫瘍縮小効果を示すことが多いことから、子宮癌への術前および術後の化学療法を組み合わせることによって全生存率の大幅な改善が期待される。よって、化学療法の効果を一部であれ予め予測できれば、化療薬剤を決定する上でも、手術または放射線治療への切り替えのタイミングを決定して効率のより治療を実施するためにも、非常に有益である。そこで抽出したゲノムDNAとRNAを、主としてマイクロアレイ解析等を行い、化療感受性群と非感受性群間の差分を解析して、化療効果を予測できる遺伝子を見いだすことを目ざした。当院で把握中の家族性子宮内膜癌の罹患者は、一般の子宮内膜癌に較べて、予後良好であることが示唆された。また、発端者が子宮内膜癌に罹患しているHNPCC家系は全体の1/3強存在し、子宮内膜癌婦人の家族歴を詳しく聴取することで同家系の診断例はさらに増える可能性が示唆され、大腸癌、子宮内膜癌の順に発生する重複癌が多いことから、HNPCC家系の大腸癌罹患婦人のフォローアップに際し、子宮内膜癌の厳重なチェックが必要であることが示唆された。
|