研究課題
一側内耳破壊後に生じる眼運動や体平衡の異常は時間経過により自然回復することが知られている。この現象は前庭代償と呼ばれており、中枢神経系の可塑性のモデルとして広く研究されている。前庭代償の発現には一旦低下した障害側前庭神経核ニューロンの電気活動の回復が重要であることが知られているが、その背景となる分子生物学的メカニズムには未だ不明な点が多い。ラットの一側内耳破壊6時間後に前庭神経核組織を左右別々に摘出し、microarray法を用いて左右前庭神経核で発現に差のある遺伝子の網羅的検索を行った。その結果、破壊側の前庭神経核で発現が増加しているいくつかの遺伝子が同定できた。以前からCa^<2+>拮抗薬が前庭代償を促進させるとの報告もあり、本研究ではmicroarrayでピックアップされた分子のうちカルシウム情報伝達に関与するL型Ca^<2+>チャネルα2サブユニット、Ca^<2+>ポンプ(PMCA2)、カルシニュリンに注目した。次いでこれらの遺伝子発現の変化をreal-time PCR法を用いて追試し、さらに遺伝子発現の時間経過による変化(内耳破壊後6時間、24時間、50時間、2週間)を検討した。その結果、これらの分子は内耳破壊6時間後には破壊側前庭神経核で発現上昇していたが、24時間〜2週間後には正常レベルに戻っていることが判明した。なかでもカルシニュリンは神経の可塑性に関与しているとの報告があることから、次にWestern blottingおよび免疫組織化学法を用いて、カルシニュリンの蛋白レベルでの変化を検討した。Positive control組織(小脳)では標的蛋白の検出ができたが、前庭神経核組織では蛋白量が少ないせいか、不成功に終わった。過去の報告と合わせて考えると、発現増加したカルシウムチャネルを通して細胞内カルシウム濃度が上昇し、カルシウム依存性の脱リン酸化酵素であるカルシニュリンが活性化され、前庭神経核細胞の可塑性が誘導されることが前庭代償の発来に関与することが示唆された。
すべて 2006
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